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コトノハ

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新婦入場(坂本一族シリーズ)

 言い出したらきりがない。

「磨希(みがき)、本当に彼でいいのね」
 新婦控室で、母は私に問う。これで十回目だ。彼でいいのね?気の迷いではないのね?しまいには、彼から無理強いされたわけではないのね?なんて、酷い話だ。一人娘が結婚するというのに。
 母は良家の娘で、嫁いだ先は関東の王者が住まう園の中核だった。自らの経験を踏まえて娘を案じているのだろうが、大きなお世話だ。
「彼“で”じゃないの、彼“が”いいの。それに、婿入りで職場もうちの病院だし。紙が一枚、役所に動くだけ。今日の式だって、私たち別に望んでいないのよ」
 私の実家では、入籍すると必ず、親族経営の高級ホテルを貸し切って盛大な式を挙げる。昔からの慣例らしいけど、時代錯誤と言われたら否定できない。別に、実家や自分の位置が嫌いとかではないけれど。
「心配だわ。卓磨さんがいくら医者でも、一般の方でしょう。何も問題を起こさなきゃいいけれど。今日はご当主もお見えになるのよ」
「やめて。この話が続くなら、ドレス脱いで家に帰る」
「頑固ね」
 どっちがだ。といいかけて、やめる。不毛な戦いに付き合いたくない。

 心配性の母が去り、スタッフに連れられてホテルに併設された教会に向かう。扉の前でドレス姿の私を待っていたのは、父ではなく親族の男性だった。
「あれ……万颯(かずさ)君?」
「悪い。磨希の親父さん、急な案件がどうのって……さっきまでいたんだけど、行っちまった」
「肝心な時にチキンなんだから。御免ね、万颯君。千笑(ちえ)が心配だよね」
「まあ、頼まれちまったからな。ちゃんと責務を果たさないと、大変そうだ」
「面倒くさいよね……じゃあ、さっさと済まそう。エスコート、お願いします」

 扉が開き、真紅の道が開かれ、拍手喝さい。その先には彼がいる。
 永遠の伴走者が待っている。

「行こう。磨希」

 皆から認められているわけではないけれど、関係ない。過去を振り返り、泣いたり怒ったりする年齢はとうに過ぎている。
 タラレバを言い出したらきりがない。
 だから、彼と前だけ向いて……

「よろしく、万颯君」

 彼とともにまっすぐ歩んでいくのだ。


                                                                              了

【登場人物】
坂本 磨希(さかもと みがき) ♀ 教師
坂本 卓磨(さかもと たくま) ♂ 医者。磨希の夫(旧姓:広瀬)
坂本 万颯(さかもと かずさ) ♂ 磨希の親戚
坂本 千笑(さかもと ちえ) ♀ 万颯の妹

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