FC2ブログ
 

コトノハ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

PageTop

優しすぎる闇のマスター

  気付いた時には闇の住人で、しかも次期トップの名札がついていた僕は、“正しい”愛情を知らずに育った。多分。傍には研究に没頭する父親とその教え子夫婦、その父親を守るボディーガードが数人。あと、父の趣味であるサックスが4本。残りは、漆黒の闇だった。
 小学生になったころ―行っていないのでわからないが―から、読み書きと加えて暗殺術を学ぶようになり、あの地獄のような事件で父亡きあとは“マスター”の位を継いだ。相良夫婦と、敵対組織“烏”の池田夫妻の、命を懸けた命のための闘い。僕ら“アサシン”はカリスマだった父に加えて、相良夫婦の命も奪われ、その子であるコードネーム“ミクティブ”を誘拐され、残ったのはまだ未熟な僕と、ミクティブの妹・コードネーム“ニーサ”。彼女はまだ僕を“祥ちゃん”と呼ぶくらい、幼かった。あの頃ほど、大人という世界の尊さに憧れたことはない。

「マスター、どうかされましたか」
「別に」
「挨拶代わりのキスは毎度ですが、抱きしめられるのは初めてです」
「僕を詮索するのか」
「違います。ただ……」
「ただ?」

「“かわいそう”と思っただけです」

 それは君だよ、相良愛――


「時はきた。ターゲットの社会的生死は君の判断に任せるよ。存分に暴れておいで。そして、ミクティブを取り戻すんだ」
「御意」

 “御意”なんて言葉、いつ覚えたのだろう。
 もう、あの頃の僕にすがっていた幼い女の子はいない。

 奏か。

「人は……人は、成長する葦なんだよな。父さん」


 呟いて。
 目からこぼれる、この水の正体はいったい何なのだろう。




続きを読む

スポンサーサイト

PageTop

新婦入場(坂本一族シリーズ)

 言い出したらきりがない。

「磨希(みがき)、本当に彼でいいのね」
 新婦控室で、母は私に問う。これで十回目だ。彼でいいのね?気の迷いではないのね?しまいには、彼から無理強いされたわけではないのね?なんて、酷い話だ。一人娘が結婚するというのに。
 母は良家の娘で、嫁いだ先は関東の王者が住まう園の中核だった。自らの経験を踏まえて娘を案じているのだろうが、大きなお世話だ。
「彼“で”じゃないの、彼“が”いいの。それに、婿入りで職場もうちの病院だし。紙が一枚、役所に動くだけ。今日の式だって、私たち別に望んでいないのよ」
 私の実家では、入籍すると必ず、親族経営の高級ホテルを貸し切って盛大な式を挙げる。昔からの慣例らしいけど、時代錯誤と言われたら否定できない。別に、実家や自分の位置が嫌いとかではないけれど。
「心配だわ。卓磨さんがいくら医者でも、一般の方でしょう。何も問題を起こさなきゃいいけれど。今日はご当主もお見えになるのよ」
「やめて。この話が続くなら、ドレス脱いで家に帰る」
「頑固ね」
 どっちがだ。といいかけて、やめる。不毛な戦いに付き合いたくない。

 心配性の母が去り、スタッフに連れられてホテルに併設された教会に向かう。扉の前でドレス姿の私を待っていたのは、父ではなく親族の男性だった。
「あれ……万颯(かずさ)君?」
「悪い。磨希の親父さん、急な案件がどうのって……さっきまでいたんだけど、行っちまった」
「肝心な時にチキンなんだから。御免ね、万颯君。千笑(ちえ)が心配だよね」
「まあ、頼まれちまったからな。ちゃんと責務を果たさないと、大変そうだ」
「面倒くさいよね……じゃあ、さっさと済まそう。エスコート、お願いします」

 扉が開き、真紅の道が開かれ、拍手喝さい。その先には彼がいる。
 永遠の伴走者が待っている。

「行こう。磨希」

 皆から認められているわけではないけれど、関係ない。過去を振り返り、泣いたり怒ったりする年齢はとうに過ぎている。
 タラレバを言い出したらきりがない。
 だから、彼と前だけ向いて……

「よろしく、万颯君」

 彼とともにまっすぐ歩んでいくのだ。


                                                                              了

続きを読む

PageTop
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。